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政府は年末、新年度2026年度予算案とあわせて、新年度の税制改正大綱を閣議決定した。 税制改正大綱には物価高などに対応するため、所得税の減税などを盛り込んでいるけれど、特に「年収の壁」の刷新を中心にどのように変わるのかAIで考察してみる。 |
―所得控除の拡大と財政健全化の相克に関する考察―
1. はじめに
政府が閣議決定した2026年度(令和8年度)税制改正大綱は、長引く物価高騰への対応と家計の購買力維持を主眼に置いている。その中心施策の一つが、長年議論の的となってきた所得税の非課税枠、いわゆる「年収の壁」の大幅な引き上げである。本稿では、基礎控除等の改正が労働市場や家計所得に与える影響を分析するとともに、改正によって新たに生じた「665万円の壁」および財政面での課題について考察する。
2. 「年収の壁」の引き上げとそのメカニズム
従来、所得税の課税境界は、基礎控除と給与所得控除を合わせた「103万円」の基準に据え置かれてきた。今回の改正では、自民・公明・国民民主の3党合意に基づき、この基準を段階的に引き上げ、令和8年度より178万円とすることが決定された。
この178万円の内訳は、基礎控除を104万円、給与所得控除の最低額を74万円へとそれぞれ拡充したものである。令和7年度の基準(160万円)と比較しても18万円の控除枠拡大となり、課税対象所得の減少を通じて、広範な所得層で手取り所得の増加が見込まれる。
3. 所得制限の導入と「新たな壁」の創出
今回の改正における特筆すべき点は、減税対象を給与所得者全体の約8割を占める「年収665万円以下」の層に重点化したことである。これは、高所得者層への過度な減税による税収減を抑制し、格差拡大を防ぐという政策的意図(垂直的公平性の維持)に基づく。
しかし、基礎控除の増額幅を年収665万円を境に調整した結果、この境界線を超える直前で税負担が急増する「新たな年収の壁」が創出されることとなった。所得格差の是正と、特定所得層における負担増感の緩和をいかに両立させるかは、今後の制度運用における大きな課題である。
4. 財政的制約と国債利払いのリスク
減税による税収減少分をいかに補填するかという財源問題も深刻である。増税を伴わない減税は赤字国債への依存を強めるが、足元では国債金利が2%を超える水準に達している。
金利上昇局面における国債発行は、将来的な利払い費の増大を招き、次世代の政策的な選択肢(財政の柔軟性)を奪うリスクを内包している。現時点での減税による恩恵が、将来的な社会保障や公共サービスの縮小という形で相殺される懸念については、十分な注視が必要である。
5. 政策手法の転換:所得控除から税額控除へ
現行の「所得控除」方式には、高所得者ほど減税額が大きくなりやすく、また納税額がゼロの低所得層には恩恵が及ばないという制度的限界がある。これに対し、政府が検討を開始した「給付付き税額控除」は、税額から直接差し引くことで減税効果を可視化し、控除しきれない分を給付として還元する手法である。
この仕組みは、物価高騰の影響を強く受ける低所得層への直接的な支援として機能しやすく、恒久的なセーフティネットとしての役割が期待される。簡素かつ透明性の高い制度設計こそが、物価高局面における国民の安心感につながる。
6. おわりに
2026年度税制改正は、家計所得の向上に向けた大きな一歩であるが、同時に新たな所得の歪みや財政上のリスクを顕在化させた。今後は、「178万円の壁」による労働供給の促進効果を検証するとともに、金利上昇時代に即した持続可能な財源確保の議論が不可欠である。単なる負担軽減に留まらず、社会全体の公平性と財政の持続性を両立させる包括的な制度設計が求められている。
